遺跡を掘る

2010年1月8日 日常
もしかして、残っているかな。

半分冗談で探したら、ちゃんと出てきた。

私が一番素直になれる場所。


古いテレビみたいに何回か叩いてみたら、

どうやらまだちゃんと動くみたい。


ここを離れている間に、

ブラジル行く気になって、体調崩して取りやめになって、

勢いづいて会社を辞めて、結婚した。

まさか自分が結婚するとは思わなかった。

あの会社、いい会社だった。

辞めてよかったのか、今でも時々考える。

いまだに、会社の夢を見て目が覚めることもある。

わからない。

でも、どんな道を選んでも、

結局、過去は美しく見えるものなんだっけか。


過去には感謝を、未来に夢を。

あぁ、ここは私のサンクチュアリ。



8月11日の日記

2007年8月11日
私の心の中にはとても固いところがあり、
享けとめたり、包んだり、そういうことが上手に出来ない

先日友人にとあるR&Bユニットが東京フィルハーモニーと一緒にコンサートをやるから行かないかと誘われた時、
心が瞬時に冷たく固くなったのに気付いた

夏は少し難しいかもしれないわ、と思案するふりをして
その実どうやって断るかばかりを考えていた

その場限りのお酒の席や会話には嫌な顔ひとつ見せない私だが
音楽と小説と食事に対してはどうしても偏屈で閉鎖的になってしまう

そのR&Bユニットは嫌いではない
ただ、彼女達の声を東京フィルの演奏で国際フォーラムで聞くのは想像するだけで頭が痛くなってしまうのである

勿論、Popsをオーケストラで演奏すると思いがけない広がりや華やかさが生まれて感動を覚えることも少なくない

しかし、私にとってそれは20曲のうちの1曲で充分だ

オーケストラにはオーケストラ用に書かれた曲がやはり一番似合う

音の入り方、重なり方、全てが調和した瞬間に
演奏側も客側もグッと惹き込まれる、あの瞬間
あの瞬間を味わいたくて私はクラシックを聴くのだから

かたくて偏屈な自分を持て余しながらも、
結局は「仕方ないな」と甘やかしている

この甘さを人は傲慢とも呼ぶ

その通りだ

快楽と苦痛

2007年6月27日
掃除をすること
花を活けること
栄養のある食事を作って食べること
本を貪り読むこと

These are KAIRAKU for me

床に洋服が散らばっていること
流しに食器が重なっていること
花を用意する時間を逃すこと
お湯を入れるだけの食事を用意すること
読みたい本が見つからないこと

These are all KUTSU for me!

快楽の反対にある苦痛は
自分のだらしなさ、計画性のなさで訪れる

ああ、それでも
苦痛の種をひとつひとつ解消していくことがまた快楽

繰り返される秩序の作り直し

小さな部屋の中で、どこへも漏れず、
どこへも発展せず、ただひたすらにせっせと繰り返されるだけ

壊れる

2007年6月25日
何かが壊れてしまうのは悲しい

電池を入れ替えても、振っても動かなくなってしまった目覚し時計や

洗っている最中に手の中で割れてしまったグラスや

少しだけ意地悪な気持ちで接した後に歪んでしまった関係や

そんなこんな、あれもこれも

目の前で、心の中で、壊れていった情景を思い出すと

苦くて苦しい

泣きたい

でも泣くもんか

泣いたって、もとには戻らない

割れたグラスはそっと新聞紙にくるんで捨て

歪んでしまった関係は元通りを目指すのではなく、変容を進め

変えていくしかない

心が軋む

でも、これは確かに始まりの夜

飛べたらいいのに

2007年6月6日
馬鹿みたいに、会社の夢ばかりを見る

繰り返したくないミスを夢の中でも繰り返しては
一番言われたくない言い方で注意を受ける

目が覚めて、夢で良かったと安心するよりも
本当に同じミスをしてしまう自分が、実体として存在していることに気が重くなる

飛べたらいいのに

飛べない事のプレッシャーで、また詰まらない夢を見る

せめて良かったことは、「飛べません」と言って「知ってるよ」と返してくれる仲間に恵まれたことだろう

飛べるなんて、思ってないから
せめて歩く努力をしてくれないか

それは諦めでもあるし、励ましでもあるんだろう

飛べたらいいのに

今日もそうやって眠りについて、一体どんな夢が待ち受ける

2007年6月4日
土曜日、大好きな同期の結婚式

インドから一時帰国して、お腹の大きくなりはじめた奥さんと式を挙げた

ちゃんと真面目な顔していられるかしら、と心配していたが、案の定、式場に入ってきた彼を見て、新郎側の友人達は「バフッ」と噴出していた

よう、見ろよ
俺がタキシート着ちゃって、バージンロード歩いちゃってるよ

そんな顔して登場されたら、それまで頑張って堪えてきた笑いが一気に噴き出てしまうに決まっている

人並みの結婚式を挙げていることが、それだけで可笑しい

披露宴では散々友人に飲まされて、何度も雛壇から姿を消していた
たまたま私も同じタイミングでお手洗いに行ったら、隣の男性用のお手洗いから、大爆笑しながら「おえええ」と吐く酷い声が聞こえてきて、私は個室でまた一人笑った

大笑いのうちに終わった披露宴の間、私は彼のおちゃらけた姿を笑いながらも、彼の掌を思い出していた

昔、彼がインドへ行く前に夜の横浜に連れて行ってもらった時、
私はこともあろうに、風邪をひいていた(のに気付いていなかった)
大黒ふ頭あたりから頭が重くなり始め、港の見える公園を歩いて車に戻る頃にはくしゃみが止まらなくなっていた

帰り道、ずっとぐしゃぐじゃと鼻をすすり上げる私に
運転席から彼は手を伸ばして、私のおでこに手をあてて「お前、熱あるよ」と言った

小さい彼の掌は、私よりも体温が低かったはずだから、きっと冷たかったはずなのに、私の記憶の中では、温かくなっている

新青梅街道で降ろしてもらう時、彼は「明日は会社休めよ」と言った

家に帰ったら、本当に高熱が出ていて、びっくりした

これ以上下品なジョークを言う人は見たこと無い、というくらい、口と態度の悪い子だけれど、いつもそうやって、辛いときに「大丈夫か」と言ってくれる
そういう時の声と目が、何故かいつも私を落ち着かせる

「あんたが人並みに父親になるなんて、世も末だね」と言いながらも、私はこの子を信頼していることに自信すらある
そして周りの友人達もこの子を大切にしていることが伝わってくる

繊細だけど、辛さをジョークで笑い飛ばすことが出来る彼が大好きだ

その掌、大事にしなさいよ
披露宴で笑いすぎて出てきた涙をぬぐいながら、エールを送る

5月16日の日記

2007年5月16日
心が自由なのか、不自由なのか分らない

心地よい日々はなんとなく、不自由

苦しい日も、これもまた不自由

ああ、自由って何

不自由な気持ちはいくらでも分るのに!
良くない兆候が現れ始めている

私がJ-Pops(大体なんだ、この乱暴な分類名は)を聞き出すときは大抵そうなんだから

何がしたいんだ

分ってる、要するにまた憧れが始まったのでしょう

半分馬鹿馬鹿しく、半分喜んでいる

そういう脆弱な自分を見つけて、憤りのやり場が分らず夜中にこんな駄文を連ねている

憧れは不足感をまやかす甘美な麻薬で

私の大好物だったけれど

目が覚めれば何も変わっちゃいない

浮き足立っては、危なっかしくて歩けやないし、まして走れやしない

マンホールに落ちて泣くのが精々

浮かれて歩くのは、土曜の夜までになさいよ

4月14日の日記

2007年4月14日
3月も過ぎてしまうと、私の体は熱で浮かされたかのように気もそぞろになってしまう

ああ、どこか遠くへ行きたい

見たことの無い空気を吸ってみたい

夜の砂漠の冷く冷えた、

新緑の都市に満ちた甘い、

トラックが巻き上げる土と埃の混ざった、

山の中の湿った、

ああ、ここでは無いどこかの

ただひたすらに、それだけを恋焦がれる

だがそこで、5月の連休に吹く東京の風を私は知らないということに気付く

ああ、それでもどこか遠くへ
今日は本店最終日であったが、所詮は部内異動に過ぎぬので
何も考えずに仕事をしていたが、
優しい室員たちは私にささやかながらきちんとした送別の時間を用意してくれていた。

会議室で私を囲み、
室長が「父親の気分だ」と言って、
次長が「ううう」と嘘泣きをして、
もう隣の室にいってしまった大好きな上司が今日も日に焼けたリスみたいな顔でニヤ二ヤと笑っている。

わたしもナハナハ笑って、格好悪い挨拶をして、来週からはパートナーとしてよろしく頼みますと頭を下げた。

来週からは30m先の関係会社に出向となる。

このメンバーは最高だったから、離れるのは悲しいけれど
いつまでも同じ場所にいると甘えが出てしまうので、ちょうど良いタイミングでの出向だったんだろう。

出向先の社長は室長の同期だが、父親というよりも、兄貴といった威勢の良い人である。

この人と共に、夢を目指すのも悪くない、と思う。

ほんとうにまいってしまう、この人たちには。

ほんとうに。

雨を待つ

2007年3月25日
ぬるい空気が部屋に満ちている

母親の電話は相変わらず騒がしく、脈絡がない

私も外ではこんな風に話しているのだろうかと少し苛立ちながらも彼女と話す時間は嫌いではない

羽毛布団が重く暑く感じ、寝ぼけの足で蹴飛ばす

今日は雨がやってくる

温くて、勢いのある雨がやってくると、天気予報がいっていた

暖房を消し、毛布に包まりながら夕方まで待つ

時間つぶしにつけていたテレビ番組で映し出されていたステーキが美味しそうで、スーパーへ行き、一人分のステーキ肉とソース、もやしを買って帰る

ソースは作れるかとも思い、買う前に壜の裏の原材料を見たが、予想以上に沢山の調味料が入っていたので、そのままかごに入れたものだ

市販のソースやドレッシングは買わないという小さな意地よりも、今日は100%のステーキを食べたいという欲望が強かった

米を炊いている間に掃除機をかける

30分程経ってもまだ炊き上がらないので、しびれを切らして肉を焼く

肉の焼ける匂いが大好きだ
甘くて、トロリとした良い匂い
とてもエネルギーのあるものを食べようとしている、そんな気分になる

つけあわせのもやしをさっと炒め、ソースを温め、テーブルに並べる

ビールが見当たらなかったので、古い飲みかけのワインを飲むことにする

テーブル横の窓からは相変わらず湿り気を帯びた不穏な風が入り込んでくる
心なしか、外を歩く人が少ない

肉を平らげ、あまったソースでもう一度もやしを炒め、炊き上がった御飯に乗せて食べる
たまねぎと醤油の混ざった酸味が鼻にツンときて美味しい

煙草を吸いながら、衣類をハンガーにかけ、何度も窓を開ける

次第に風が強くなってきている

空は雲に覆われすみれ色に染まっている

マニキュアを塗ることを思いつき、近くのコンビニエンスストアへ行き、金色の壜を受け取って部屋に戻り、手にも足にも丁寧に塗っていく

ドロリとした液体が硬いエナメル質になって、それでもまだ雨は降らない

近くの家で、強風に煽られた何かが落ちて、金属質の音を響かせる

もう外を歩く人もいない

私は雨を待てず、寝てしまうかもしれない

ほんまちゃん

2007年3月16日
ほんまちゃんという同期がいる

頭が良くて、きちんとしていて、優しい

私が煙草を吸いたくてイライラしている頃に、
「コンビニいく?」とメールをくれる
社内で吸わない私が唯一煙草を吸えるのは、ほんまちゃんと残業御飯を買いにコンビニへいく時だ

「今日も残業だー」と金曜夜にわめいていると
21時くらいに「自棄酒するかー」といってくれるときもある

ほんまちゃんと飲むお酒は、ほんわかとしている

私はほんまちゃんの仕事の話を聞くのが大好きである

近い仕事をしているが、アプローチが違うので「ふうん」と思うことが沢山あって、ヒントだらけのクイズを聞いているような、そんな面白さがある

私は仕事そのものの話よりも、周りの先輩がいかに素晴らしくて自分を感動させるか、を恋物語のように嬉々と喋る

やさしいほんまちゃんは、そんなバカバカしい話にもちゃんとうなづいてくれる

昔は、ほんまちゃんは仲良いメンバーの中でも、私は一番警戒していた男の子だった

誰にでもやさしそうな顔をして、裏では違う顔を持っているんだろうと勝手に思っていた

でも、近くで仕事をするようになって、ああこの人は本当に誰にでもやさしい人なんだ、と分った

頭が良くて、きちんとしていて、やさしい

濁りなく、ありがとう、という気持ちを伝えたくなる

ピンポン Pang

2007年1月20日
今日は Ping Pong Pang
いつもはピンポンピピピピ・・・ビィーと私が(心で)泣き出して終わる会話が、ピンポンピンポンポンピン パン!

私が愛してやまない先輩と、仕事の話がスムーズだ

それだけ、それがこんなに幸せ

不出来な後輩を持った可愛そうな先輩が、今日はいつもより少し顔が辛くなさそうでしょう

いつも私のとばっちりを受ける彼に、私は本気で申し訳ないと感じているし、時には「辞めてお詫びを」と真剣に考える

そんな張り詰めた二人の空気を知ってか知らずか
アシスタントさんは「二人の会話はいつもかわいらしいですね」と暢気に言い放つものだから、益々私は居心地が悪くなり、先輩は白けた顔で自分のデスクトップに顔を戻してしまう

今日は何を言われても怖くない

スマッシュヒットは打てない私だけど
少しは長いゲームを楽しめたでしょう

先輩、あなたと会話が続く今日はこんなに気持ちいい

どうもありがとう
十一月の扉、という本を読んでいる

絵本のような幸福な話

読み進めながら、私は小さい頃の幸福な食欲を思い出さずにはいられない

物置小屋の乾いた空気と、陽に照らされた無数の埃、
その香ばしいことといったら!

絵本や子供向けの物語の中の動物や少女達の食事はいつも私の憧れだった

焼きたてのホットケーキ、
寄宿寮に送られてくる缶入りのチョコレートとボンボン、
日本ではなかなかお目にかかれない大きなソーセージ、
じゃがいもがゴロゴロと音を立てるスープ、
あぁ全てが温かくて美味しそう。

電気の無い物置小屋を暗くなる前に退散し、食堂へと戻る

ハンバーグもナポリタンもミートボールもクリームシチューも苦手
焼き魚もおうどんも海老のチリソースもオムレツも何もかもが嫌い
家の食事を食べない子として、母親の手を煩わせていた

「この子は何なら食べるんでしょう?」

バタつきパン
宝石みたいなクッキー
半熟目玉焼ののった分厚いトースト
ウイスキーの入ったチョコレート

そんなものばかりをねだっては、「身体に悪い」と叱られていた

ねぇ、お母さん

沢山の経験は私を刺激し、
今は一人で魚も焼くし、中華定食を上司と食べるようにだってなった
給食で食べたピーマンのてんぷらに感動し、ピーマンは私の好きな野菜のひとつ。
食べると気分が悪くなってしまっていたショートケーキも今は自分から注文するときすらある

でもね、いつも私は思い出と食事しているような気がしてならない

結局は子供の頃と何も変わっていない

あの頃、私の食欲は小さな絵本の中に詰まっていた

今も、私の食欲は小さな経験の中から出てきている

村上春樹の小説を読んでは、生ぬるいビールを渇望し、
ドイツの旅行を思い出しては、生サラミと黒パンを皿に盛る

私もいつか母親になって、子供に言うと思うわ

どうして嫌いなの、こんなに全ての食事は輝かしいのに?

その時はこの日記を思い出そうと思う

ねぇ、あの時のお母さんは私を見て、何を思っていたんだろうね。
情熱はそこには無くて

ロマンチックもそこには無くて

何があるのかと考えてみても

よく分らないなぁと呟いて終わってしまう

こんな気持ちは恐らく初めてだ

会う度に「あれ、こんな人だったか」と思う

話が進むにつれて、「あぁ、こんな人だった」と楽しくなってくる

あっさり駅で別れると少し寂しい

でも、同時に少し安心する

あなたを思って泣くことが、この先あるだろうか

無いような気がする

でも、暴風雨の中見上げた夜桜や、美味しいものを食べた後に贅沢な気持ちで歩いた夜の大使館前や、煙をわっかにしようと競い合うように煙草を吸った韓国料理屋なんかが

思い出す度に私の頬を緩ませるのは事実だ

よく分らないなぁと思いながら、ベランダに出て
冷たい満月を見上げると
今日真剣な顔をして、月が綺麗だと見上げていたあなたを思い出し、
頑張ろうよ、と月に呼びかけてしまうのも、これも全部事実なんだ

男というものは

2006年10月7日
なぜ、タクシーの中で眠るのだろう

私は滅多なことが無い限り、同乗者の居るタクシーで眠らない

私が眠るのは、今すぐにでも吐きそうなとき、ものすごくお手洗いに行きたいとき(失礼)、この二つくらいである

無理やり眠ってでも、時間の経つのを忘れたい、そんな時だけなのである

私の連れにそういう人が多いのか、世の男性の多くがそうなのか、男の人は酒を飲んだ後のタクシーで、びっくりするほどぐっすり眠る(と、私は思っている)

最初は会話があるのだが、だんだん声がスロウになって、返事が遅すぎるよ、と横を向くと、寝ているのである、見事に

私は一人で会話してしまった恥ずかしさを、「アラ」なんて言って誤魔化して、所在無く窓の外の夜景を眺めてたりなんかするのである

だけど、タクシーを降りると、私より遥かにシャキッとしているのだから、二重人格者かと疑ってしまう

皆さん、どうして寝るのですか

深夜のタクシー

どこまでも行けそうな、そんな夜の道の上で

胸をはずませているのが私一人なんて

月夜

2006年9月9日
月がまぁるい

雲に隠れては現われ

新聞配達人の背中を照らす

月がまぁるい

朝がくることを忘れさせてしまうような

静かな夜

寄せては離れる

2006年9月8日
私のこの気持ちをどうやったら伝えられるのだろう

伝えたいような、伝えなくても良い事のような

分っているのは、どちらにしても

私が臆病であること

伝えたいのは、希望が欲しいから

伝えたくないのは、わずかな想像を楽しみたいから

本当は、今の世界も瞬間で割り切れるものではなくて

その時のYESが、次の終わりに向かうことも

その時の、それは違う、が変容していくかもしれないことも

想像を凌駕していく本当の世界を手にすれば

海を見ても、誰かと食事をしても、ベランダで花に水をやっても、

いつも、戻ってくるのは、あの人にこの景色を、この味を、この喜びを伝えたいということ

それでも、勇気ない私は、こうして独り言を綴るだけ

寄せては離れる、あの人への気持ちを持て余す
洗濯物の干し方
雑巾の洗い方
床の磨き方
ボタンの付け方
献立の組み立て方
のこぎりの使い方
植物の育て方
地図の見方
数の数え方
日本語の読み方、書き方、敬語の使い方

今思えば、小学校で習ったことは生きるための術ばかりだった

物干し竿にハンカチを干すとき
フローリングを掃除するとき
ほつれた裾を縫うとき

思い出すのは、小学校の教室

学芸会や、朗読会や、クリスマス会よりも
地味で独創性も何もないような授業がつぶさに思い出される

すごいなぁ

人間として生きるための教育だったとは

誕生日の一週間

2006年8月27日
火曜日は誕生日だった

優しい友人達からお祝いの言葉をもらいながらも
仕事と向き合っていて、お礼も怠っていた

特に予定も無かったので、気にせず仕事をしていたら
夜もほどほどに大学の友人からメールが届いた

大手町は本当に何もないね
いつも話に聞いているセブンイレブンを発見したよ

この人は、どうして大手町の話をしているのだろう

不思議に思いながら、仕事を続けていたら
少し出てこれないかと再度メールが届いた

携帯を見ると、着信もある

出れないよ、と私は不機嫌に思いながらも
どうしても、と言う(彼女にはめずらしく引きが悪い)

タイミングを見計らって、会社の外に出ると
大手町に歩いていなさそうな、ラフな格好の友人がガードレールに腰掛けていた

ごめんね、と彼女が言う
いや、こちらこそ、中々出れずごめんね、と謝り交換

これ、と言って彼女が差し出してくれたのは、
小さなケーキの箱だった

ケーキ食べたいってさっきメールで言ってたじゃん

肩の力が抜けた

大手町は何もないね、と彼女がまた言う

そうだね、夜はお茶するところすら無いよ、と私はでくのぼうのようにつまらない返事をする

じゃぁね、と彼女は帰っていった

職場に戻り、箱を開ける

どうしたの、と驚いて職場の人達が尋ねる

今日、誕生日なんです、というと

どうして早く言わないの、お昼ももっといいところで食べればよかったね、と言ってくれる

その言葉で十分

ありがとう、と言ってケーキを分けて食べる

気づくと、もう12時を過ぎて、いつも通りの夜だった

いつも通り生きていることに、少しうれしさを感じながら

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