遠い国からの電話

2006年4月15日
ちょうど大手町でコーヒーとサンドイッチを探して途方に暮れていた

最後の頼みの綱であったスターバックスですら休日はお休みで
丸の内まで足を伸ばすか、素直に会社へ向かうか悩んだ末、
時間のロスを考えて、会社へ向かおうと地下道で体の向きを変えた

携帯が鳴り、バッグから取り出すと、会社の先輩からだった
「誰でしょう?」と無邪気に尋ねてくる
私は、半ばあきれた声で先輩の名前を口にする

彼はちょっとがっかりしたような、一方ですぐに自分だと分かってもらえたことがうれしかったような、なんとも言えない声で「髪を切ってこれから食事に行く途中なんだ。暇だからかけてみたんだ」とこれまた無邪気な声で言う

「暇だからかけた、というのは失礼でしょう?人の休日を何だと思ってるんですか?」とあえてきつく言う

きっと彼は笑いながら聞いていたはず

いつもそう、彼は笑っている
アルコールが入ると、どうしようもない話ばかりする人だが
あまりにカラリと話すので、私は彼と話すのが嫌いではない
それに彼の笑顔は、人生の苦渋を飲み込んだ結果の賜物のように写るから

2軒目のバーで、楽しそうに男女の話をする彼を横目で見ながら
間違っても、私はこの人とは結婚しないけどなぁ、と
彼の奥さんと二人の息子を想像してみる

まぁ、人には好みというものがあるんだろう

そして今日の電話

これから食事に、って誰とですか?と聞こうと思ってやめた
彼の楽しそうな声を聞いたら、それが家族だろうと、北海道で知り合ったというフライトアテンダントだろうと、何でも良いのではないかと思った

会社に着き、ある程度の仕事を片付けた頃
懐かしい名前が携帯の着信画面に表示された
呼び出し音が一回で切れてしまったので、こちらからかけなおしてみる

「ひさしぶり、今彼女と君の話をしていたんだよ」と彼が言う

「それはありがとう。私の事を話す暇があったら、自分達の幸せについて大いに語り合ってなさいよ」と私は応える

ねぇ、と彼が続ける

「もし、君がドイツへ行っていなかったら、僕達は付き合っていたと思う?」

一瞬、びっくりして黙ってしまう

「今、彼女と話していたんだよ。君が秋にドイツへ行く前、僕は彼女に相談していたんだ」

「なんだか良く分からないけれど、私はドイツへ行った、あなたは今の彼女と付き合いだしてた、これが事実だし、きっと運命ってそういうものよ」と私はあきれながら言う

「それよりも、そんな悪趣味な質問はやめにして、二人で過ごす時間を楽しみなさいよ」

「うん、そうだね」と素直に彼は同意して、それから彼の新しいオフィスの場所と、近くへきたときには電話をするように、と伝えて電話を切った

今日はおかしな電話が多い

皆、幸せな場所から、なぜ私に電話をかけてきたんだろう

彼らとの会話を想い出すと、国際電話のそれのように、
すこし遠くて、乾いた音だったような気がする

私は淡々と道を歩いていたのに、通り沿いの公衆電話が鳴るので仕方なく取り上げて、見知らぬ人と見知らぬ世界について話して、そして電話を切る

私は再び歩き出すし、きっと電話の向こうの世界もゆるやかに進んでいくのだろう

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