夕焼けデート

2006年5月3日
長崎駅に着いたのは午後3時少し前

外海町へ行きたかったが、バスでは1時間半かかるので、遠藤周作文学館の最終入館時間には間にあわない

諦めきれず、ホテルのフロントでタクシー会社に電話してもらい、外海町にタクシーでいくにはどの程度かかるのかと聞いてもらった

「一万円は超えてしまうかもしれない、とのことですよ」

独特のイントネーションで、フロントのスタッフがすまなさそうに言った

一万円、正直微妙なところだ。次回長崎へ来る機会がいつになるか考えると、今タクシーに乗って見に行くべきだ、という自分と、そんな贅沢をしては悪い癖がつく、と戒める自分と。

とりあえず、わかりました、とだけ伝えて、ホテルの外へ出る

どうするか、どうするか、間に合うかわからないがバスで行ってみるか。間に合わなかったら、外海の海だけでも見てこようか。

コンビニエンスストアでカメラのフィルムを買ったついでに、「外海へのバスはどこからでていますか」と聞くと、遠い町まで行くバスの乗り場はよくわからない、という。

それならば、と決心が固まった。
タクシーで行こう。帰りはバスで戻ってくれば良い。

駅の前でタクシーを拾い、「外海の遠藤周作の記念館へお願いします」というと、「どこですかね」とこれまた要領の得ない返事であった。
「黒崎のほうです。あの、教会のある」と伝えると、確認のためか無線で「遠藤周作さんの記念館は黒崎のほうですか」と確認している。
遠藤周作さん、とさん付けで読んでいたのがとても感じ良い方だと思った。

懐かしい外海へ向かう道。前回はバスの窓越しに見た景色だ。

世間話をしながら、車は進んでいく。

「帰りはどうなさるね」と聞かれたので、「一応、バスを予定しています。何時に戻るか決めていないし」と答えると「なら、帰りは半額にしますから、どうでしょうね」と言う。
いくら何でもそれは申し訳ないと、恐縮して断ると、
気にしないでいい、自分は駐車場で少し昼寝をするので、戻ってきてまだタクシーが止まっていたら窓を叩いて起こしてくれればいい、と往路のレシートに携帯番号を書いて渡してくれた。

外海は、2年前と変わらぬ穏やかな海が広がり、
私は遠藤さんの記念館を鑑賞し、海辺まで散歩し、2時間ばかり経って駐車場へ戻ってきた。
彼には、他のお客さんがいれば私を置いていってもらってかまわない、自分はバスで帰るかもしれないし、と伝えてあったので、もしかしたら居ないかもしれないと思ってはいたが、私の心配をよそにタクシーの中でぐっすり眠る彼を発見した。

起こしてしまったことに私は申し訳なさを感じていたが、彼は彼でお客に起こしてもらったことをしきりに恐縮していた。
タクシーに入ると、「お茶はどうですか」と冷たいお茶を出してくれ、「帰りましょう」といって長崎方面へ車をうごかしてくれた。

帰り沿い、私がしきりに外海の景観を褒めていたら、女神大橋というのは知っているか?とたずねて来た。
知らない、と答えると、つい最近できた立派な橋で、そこから見える景色はまたすばらしいのだ、自分も3度ほどしかわたったことはないが、とても感動した、と言う。
それは素敵ですね、というと、同じ長崎へ戻るなら少し遠回りだが女神大橋をわたっていきませんかね、というので、それでは是非お願いします、ということになった。

夕暮れの大村湾を眺めながら、車は進む。
途中、式見かまぼこという蒲鉾屋の前を通り、ここの店の蒲鉾がとても美味しいから是非食べさせたかったと残念がっていた。(残念ながら、今日は店が閉まっていたのだ)

日が落ちる一寸前、ようやく女神大橋にたどり着いた。

料金所のレシートを「記念に」といって手渡してくれる。
ちなみに彼はここまでずっとメーターを動かしていない。

端から眺める長崎湾は興味深かった。
今まで、長崎湾を外側から眺めることがなかったが、運河くらいの幅しかない湾はとても不思議な気持ちを私に起こさせた。
すべてがミニチュアで嘘のようだ。

橋を渡りきったところで、記念の写真を撮る。
彼にも橋を背景に写真に入るように勧め、半ばむりやりに写真を撮った。
だって、そこまでの道で彼がいかに女神大橋を好きかということもわかったし、また話の口ぶりから彼が独身であることも推測できていた。
おそらく、彼は一人でこの橋を渡っているのだろうから、まだ写真を撮ったことはないのではないか、と思ったのだ。

かわるがわる写真をとり、長崎の中心地へと戻る。

2500円でいいという彼に、それは困るせめて3000円は貰ってください、というと、自分の好きで橋を渡ってもらったし、としきりに恐縮していたが、そこは受け取ってもらって、お礼を言ってタクシーを降りた。

外海、大好きな町に、またひとつ暖かい思い出が増えた。

今日の景色、私はきっと生涯忘れないだろう。

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