十一月の扉、という本を読んでいる

絵本のような幸福な話

読み進めながら、私は小さい頃の幸福な食欲を思い出さずにはいられない

物置小屋の乾いた空気と、陽に照らされた無数の埃、
その香ばしいことといったら!

絵本や子供向けの物語の中の動物や少女達の食事はいつも私の憧れだった

焼きたてのホットケーキ、
寄宿寮に送られてくる缶入りのチョコレートとボンボン、
日本ではなかなかお目にかかれない大きなソーセージ、
じゃがいもがゴロゴロと音を立てるスープ、
あぁ全てが温かくて美味しそう。

電気の無い物置小屋を暗くなる前に退散し、食堂へと戻る

ハンバーグもナポリタンもミートボールもクリームシチューも苦手
焼き魚もおうどんも海老のチリソースもオムレツも何もかもが嫌い
家の食事を食べない子として、母親の手を煩わせていた

「この子は何なら食べるんでしょう?」

バタつきパン
宝石みたいなクッキー
半熟目玉焼ののった分厚いトースト
ウイスキーの入ったチョコレート

そんなものばかりをねだっては、「身体に悪い」と叱られていた

ねぇ、お母さん

沢山の経験は私を刺激し、
今は一人で魚も焼くし、中華定食を上司と食べるようにだってなった
給食で食べたピーマンのてんぷらに感動し、ピーマンは私の好きな野菜のひとつ。
食べると気分が悪くなってしまっていたショートケーキも今は自分から注文するときすらある

でもね、いつも私は思い出と食事しているような気がしてならない

結局は子供の頃と何も変わっていない

あの頃、私の食欲は小さな絵本の中に詰まっていた

今も、私の食欲は小さな経験の中から出てきている

村上春樹の小説を読んでは、生ぬるいビールを渇望し、
ドイツの旅行を思い出しては、生サラミと黒パンを皿に盛る

私もいつか母親になって、子供に言うと思うわ

どうして嫌いなの、こんなに全ての食事は輝かしいのに?

その時はこの日記を思い出そうと思う

ねぇ、あの時のお母さんは私を見て、何を思っていたんだろうね。

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